16. 規制したつもり?――国籍の届出を義務化
外国人の土地取得、国籍の届け出を義務に 大規模取引の実態把握急ぐ――
日経新聞(2025.10.1付け)※1は、土地売買の事後報告の届出内容に国籍条項を追加※2することを報じました。「外国人対策として期待できる」という思いが感じとれます。
国交省の説明をメディアはそのまま流したのでしょうが、筆者は過大な期待はしていません。二つの問題があると思っています。
一つは、この国土利用計画法23条の届出行為は従前からあまり守られていないからです。
数年前、筆者は学校法人に勤めていて運動場を売ったことがあります。事後届出が必要な大規模土地取引(市街化区域内で2000㎡以上)に該当しましたが、森ビルOBの買受側の担当者は、契約前にこう言いました。
「国土法(23条)の届出はどうします?(役所から)言われたら出しましょうか?」
結局、出さなかったようですが、役所から指摘されることもなくそのままになりました。
かつてF市(神奈川県)の届出担当者が教えてくれました。
「売買届出の制度はザルです。虚しい仕事です。何のための制度なんでしょう?※3」
二つ目は、国籍の解釈、定義に問題があります。
海外法人が日本で子会社(日本法人)をつくった場合、外国籍にはなりません。(株)上海電力日本や華為技術日本(株)は外資系ですが、本ケースに該当したとき外国籍とはなりません。土地買収をしても日本籍(日本法人)による買収としてカウントされます。
もっと言えば、届出は大規模な買収に限られます。市街化区域で2000㎡以上(666坪以上)、都市計画区域以外では1ha以上の物件しか届出対象になりません。国交省によると全体の1%(件数)だそうですが、これでは全貌はわかりませんね。
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※1 外国人の土地取得、国籍の届け出を義務に 大規模取引の実態把握急ぐ – 日本経済新聞
※2 農地取得(農地法3条)に国籍条項を追加したのは2024.4。これは国土法23条の事後報告とは規制レベルがちがい、農地取得に際し、許可を得るために必須の手続きなので有効な規制となっている。
※3 詳細は拙著『日本、買います』(新潮社2012年)のpp79-83.国土利用計画法の目的は、土地の投機的取引と地価高騰がもたらす弊害の除去、適正な土地利用の確保を図ること。
