私たちの大志Our Vision & Voices

ムクナ豆博士の日誌

18. クロスモーダル効果――1+1 ≩2

植物とヒトの歴史は、それぞれ5億年と500万年(サルまで数えると5000万年)。植物の方が先輩ですが、ヒトは共通する感覚をいくつも引き継いできています。

この日誌ではこれまで植物が持つ五感――聴覚、視覚、嗅覚、触覚、味覚にふれてきましたが、ヒトの五感についても見ていきたいと思います。

私たちの先祖は森の中から出てきたので、人は森林浴(森林セラピー)をするとなごみます。木漏れ日が差し込む小径を歩き、涼しげな風が私たちの頬や手の甲に当たると清々しさを感じます。カツラやトチの木々からは芳香が漂い、クロモジやカエデの葉っぱを噛じると爽やかな酸味や甘みを感じることができます。私たちは五感を総動員しながら心地よさを味わっているわけです。

脳は複数の感覚(モーダル)を同時にとらえて情報処理を行っています。私たちは別々の個別情報処理(ユニモーダル)の結果、臨場感をもって置かれた森林環境を感じとっています。1+1は2ではないことを体験的に知っています。そよ風を感じたとき、ある感覚情報によって同時に入ってくる他の感覚情報が干渉を受け、その感じ方に微妙な変化が起こることを多々経験しています。

この干渉効果として他の感覚情報が質的にズレを生じさせ、量的に感覚の増幅や減衰を起こさせます。これがクロスモーダル効果と呼ばれるものです。五感はもともと独立して働くものではなく、脳は複数の感覚を組み合わせながら捉えており、ある感覚の情報から他の感覚の情報を補完して処理しているのです。クロスモーダル効果は、五感の中の一つの感覚が刺激された際、存在しない他の感覚を脳が補完してしまうことで起こるものです。視覚と聴覚を支配するVR(バーチャルリアリティー)や腹話術では、このクロスモーダル効果が起こっていると考えられます。

脳は過去の自分の体験に照らし合わせ、入ってきた感覚を補完します。逆に言うと、過去の体験がなければクロスモーダル効果は得られません。

それゆえ一度は良い体験をしてみるべきです。

本物の自然を脳に学習させ、それを忘れない程度に繰り返す……。

記憶の中によき体験を、しかも本物の自然の中に身を置き、若々しく体験しておくことが私たちには有意義です。

※1『森林セラピー検定テキスト』(森林セラピー概論:瀬上清貴)

森林セラピーの聖地(ドイツ・バートウェールスホフェン)