20. クマと獣害過疎
拙稿「人を危める熊は殺めるほかない」(2023.11.16)※1が先週、【JBpressセレクション】に再掲されました。あまりに酷い「クマの侵出」と「都会のペット派の主張」のズレに呆れ果て、2年前に書いたものですが、この2年で政府(環境省)ができたのは、クマを「指定管理鳥獣」に追加し、自治体の了解によって猟友会がクマを撃てるようになっただけです。抜本的な対策はできず、先送りでした。
クマ問題は年々悪化し、今年に入ってからすでに死者は13人。これまで最多だった2023年の2倍以上です。
現時点ではライフルをもって撃てるのは民間団体(猟友会)だけで、「人の命をボランティアによって守ってもらうしかない」――というこの国の体たらくは、クマのいない地区に暮らす意思決定層が惨状を体感できず不作為を続けたからだと思います。クマにやられている人は、東北、北海道等のフツーの人たちばかりなのに、都心に食む人たちは被害なしですから、本当に不平等です。
春の山菜や秋のキノコの恵みは、田舎に暮らす人たちの唯一の楽しみで、生きがいです。それが収入源だった人たちに政府は手を差し伸べられていません。
クマの生息エリアに暮らす人たちの声※2は届かず、クマにおびえて暮らすしかありません。このまま推移すると、山を下り、田舎から出ていく人たちが加速するでしょう。「獣害過疎」の拡大は避けられず、抜本対策の道筋はまだ見えていません。
現在、ハンターの絶対数が圧倒的に足りず、クマの頭数把握はもとより、個体数管理などは夢のまた夢、ほぼ不可能です。猟友会、警察など駆除するメンバーを増やし、活気づけるため、警察OB、自衛隊OB等の方たちから成るプロ養成、研修強化、高額待遇の付与などの総合的な対策を即決実施すべきです。激甚災害と同様のスピードで、5年間集中的にクマ頭数の激減を図る必要があると思います。
江戸時代、人口の9割は農民でした。里の人は里山に入り、食物を得たり、肥料として草木灰が不可欠でしたから枝葉を集めるため日常的に地かきをしていました。だからマツタケは沢山穫れていましたが、今やネマガリタケや天然きのこの採集は命がけになってきました。
ドローンやAIが導入され、クマの頭数をコントロールできるようになる日はやがて来るのでしょうが、その前に過疎地から人は消えています。一方で、クマは種としての縄張りを今日も広げ、自由に里や都会を徘徊しています。
ヒトは檻で囲われたマンションの中で暮らすようになってよいのですか?
それでも幸せですか?
※2 秋田県の人口は89万人(2025.1.1)。東京23区の世田谷区は人口95万人(2025.10.1)。


